ホテルに荷物を預け、まずUlusoy(バス会社)のオフィスへ行く。Ünye(ウンイエ)まで360万TLで午前4時着だという。ちょっときつい。サムスンかトラブゾンに向かおうかとも思ったけど、「地球の歩き方」の文句に魅かれて行ってみることにした。
このオフィスのおじさんがまたいい人だった。チケットをとったついでにTourist Informationの場所を聞くと、場所を知らなかったのか、所員に英語で説明させようとしたのか、T.I.のオフィスに電話をかけてくれ、しかもオフィスの若い者にバス停まで案内させてくれた。肩をたたいて送り出すように。ゴッドファーザーみたいだ。
「若いの」はバス停まで連れて行ってくれ、バス停にいたおばさんに後事を託して戻って行った。小さなバスは5分ほど走って旧市街へ着く。そこでおばさんが道を教えてくれると思ったら、T.I.まで連れて行ってくれた。ただの買い物帰りの人なのに。朝からツーリスティックでない土地のよさを味わった。
サフランボルは非常にいい街だ。特に旧市街の古い街並みはとてもよい。どの家もだいたい一階部分は石積みで、二階から木で軸組みをし、土壁にしているようだ。
2軒ほど中を見学できるところがあるので入ってみたら、中は変な間取りだ。意外なところに隠し部屋のようなものがある。女性を人の目に触れさせないためだそうだ。
さっきから街並みの中を雨に濡れそぼちながら、寒さに震えながら、でも感じているいい気分をどう表現しようかと思っている。
古い、ドイツ風にも思える街並み、荒れた土地、崖に低木、雨のせいか靄が出て、それらが混じり合って香り立つようだ。
この街では日本人は比較的珍しいのか(それでも日本人らしき人を一人、遠目に見た)、旧市街ですれ違った少女も、街灯を工事中のおじさんも、銀行で会い、その後も街ですれ違った女の子も、PTTの人も、みんな”Merhaba”(メルハバ=こんにちは)と声をかけると、魅力的な笑顔を見せてくれる。りんごをおごってくれた果物屋の店主もいた。食料屋の息子の、おっかなびっくりこちらを見て敬礼なんかしてしまったときの表情も忘れがたい。
街を歩いていると、こんな横断幕もあった。たぶん「日本市場」と書いてある。日本人のイメージはこんなものなのかな。日本人から見たら、「それ、昔の中国人でしょ」だけど。
街を去る時は、何だか知らないけど、ちょっとばかり涙が出そうになった。旅の始まりで出会ったこの街を忘れないようにしよう。そしてこの先も気持ちのいい旅が続いて欲しいものだ。
1998年11月のある日